Interview

社長のせなか

株式会社アヤベ洋菓子

綾部 哲嗣社長インタビュー

【第3回】 2017.11.01

 

今の苦しみは永遠に続かない

鈴木:印象的なスタッフの話を聞かせてください。

綾部:一番印象深いのは3年前の事件ですね。50代のベテラン社員が仕事をボイコットして、商品の出荷がストップしてしまったんです。当時、パイの生産ラインを動かせるのは彼だけでした。

鈴木:なぜ会社に来なくなったんですか?

綾部:肉体的にも精神的にも限界だったからでしょう。その2ヵ月前は最新の第5工場を立ち上げた時期。ギリギリの計画で操業を始めたところ、たちまちパンクしてしまいました。そこで再び4つの工場に業務を集約して、生産を再開。朝から晩まで休み返上で働く日々が続き、みんな疲弊していました。

鈴木:いつ問題が発覚したのですか?

綾部:会社に来なくなってから、3日以上は経ったころだと思います。当時はあらゆる部門がキャパオーバーだったので、私が4つの工場を駆けずりまわって陣頭指揮をとっていました。そこで彼が担当しているはずの部門を確認し、異変に気づいたのです。

「アイツはどうした?」と従業員に確認すると、「もう何日も来ていません」と。まずは生産ラインを止めて、しばらく様子を見ることにしました。今思えばマズかったですね。他にも多くの問題を抱えていたので、解決を先送りしてしまったのです。

鈴木:御社の洋菓子はOEMなので、顧客が簡単に他社製品に切り替えられませんよね。

綾部:ええ。私たちのように、パイ生地を織って大量生産できる会社は数えるほど。特殊な製品だからこそ、扱える人材も限られていました。

その後はお客さまに謝罪して、「数日後には必ず再開します」と約束しました。もちろん、激しく叱責されましたよ。最初は「機械の調子が悪くて」と説明していたのですが、次第にごまかせなくなる。1週間ほど経ったころ、腹をすえて原因を正直に告白しました。

すると不思議なもので、お客さまの怒りがおさまり、一緒に祈ってくれるようになったんです。「切り替えたくても、他じゃできない。綾部さん、なんとかしてもらわなきゃ困りますよ」なんて。

鈴木:まな板の鯉ですね。わかっているけど、どうしようもない。

どうやって問題を解決したんですか?

綾部:彼を呼び戻すしかありません。携帯電話がつながらないので、家を訪れました。そこは郊外の立派な一軒家。家族と暮らすマイホームを見て、なんだかうれしくなりました。ウチで一生懸命に働いていれば、いい家を買えるんだって。

鈴木:社長にはそういう感情がありますよね。僕もはじめて社内結婚を知ったときは、スゴくうれしかったですよ。この会社で「家族をつくる」という人生の決断をしてくれて。

綾部:私が訪れたのは日曜日の午後でしたが、家に誰もいませんでした。ずっとハりこんでいるのも怪しいので、少し離れた場所に車をとめて待機。家と車を行きつ戻りつしながら、7時間以上は待ったと思います。室内に電気が灯ったのを確認して呼び鈴を鳴らし、やっと会うことができました。

鈴木:すんなり説得できましたか。

綾部:いえ、逆に問い詰められました。「社長は言ったじゃないですか?新しい工場ができたら良くなるって。なのに、実際はひどい状況です。こんなのが続いたら、人も会社もつぶれますよ!」。

まずは「本当に申し訳ない」と頭を下げた後、思いのたけをぶつけました。「今は耐えるしかない。必ず立て直して、描いた夢を実現する。でも、あなたがいなくなったら、立ち直るものも立ち直らない。まずは戻って来てほしい」。あとは粘り腰ですよ。「わかりました」という返事をもらうまで、帰りませんでした。

その結果、翌日に生産が再開。お客さまに取引を減らされることもなく、現在まで順調に業績が伸びています。

鈴木:今も彼は在職しているんですか。

綾部:はい。いまや社内の研修会でお手本になるような人材です。チームをつくるのが上手で、パートさんたちから慕われている。先日の個人面談で「残ってよかったろ?」と尋ねたら、笑顔でこたえてくれました。

鈴木:苦しい時期を乗り越えて、状況が好転したのを実感しているんでしょう。

でも、「もう少し耐えたらラクになる」って、なかなか伝わりませんよね。ダイエットや逆上がりもそうですが、最初の時期が一番キツい。その苦しみがずっと続くと思うから、途中で挫折してしまう。それをどう説得するかは、悩ましいところです。

綾部:そうですね。給料を上げるとか、安易な空手形は切れません。私の場合は全人格をかけて、夢やビジョンを熱く伝えました。

おそらく、当時は全従業員がハードワークに不満を抱いていたと思います。「こうやって会社って壊れていくんだな」という恐怖さえ覚えました。どんどん大切な仲間が去っていき、お客さまの要望にこたえられなくなるんじゃないかって。

鈴木:社長の仕事って、現場と顧客の帳尻をあわせることですよね。それを綾部さんはギリギリのところで実現したんだと思います。今日は話しづらいことをたくさん話していただき、ありがとうございました。

(おわり)

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