Interview

社長のせなか

北洋建設株式会社

小澤 輝真社長インタビュー

【第2回】 2018.07.24

 

元受刑者の再犯を防ぐために“居場所”を用意

 

鈴木:創業期の北洋建設は“従業員が多いほど儲かる”という時代だったので、元受刑者を積極的に雇用していました。でも、いまは経済的な観点だけで考えると、元受刑者を雇っても決して儲からないですよね?

 

小澤:ええ、圧倒的に損ですよ。そもそも元受刑者をひとり雇うのに、約40万円もの費用が必要です。だから、損得勘定でやっているわけじゃありません。再犯者を減らすために、この活動をやっているんです。僕自身が重度の障がい者なので、就職に困っている人の気持ちは痛いほどわかります。

 

鈴木:なぜ40万円もかかるんですか?

 

小澤:ほとんどの出所者は、面接を受けるための交通費が出せません。だから、ウチが全額負担しています。そのほかにも着替えや工具などを買い与えるので、40万円くらい必要なんです。こういった経費だけで、これまで数億円は出してますよ。

さらに覚せい剤の前科者に対しては、不定期で尿検査を行っています。そういった検査キットなどをウチが全額負担。また、会社のとなりに社員寮も用意しています。

 

鈴木:出所者の就労支援は社会的意義の高い活動です。国から助成金は出ないんですか?

 

小澤:2015年から、やっと多少の奨励金が出るようになりました。金額は1ヵ月で最大8万円。たいていは2ヵ月分なので、16万円しかもらえません。制度上は最大72万円(年間)が支給されるのですが、ウチに適用されたのは1回だけ。だから、会社の土地を売ったりして、なんとかお金を工面してきました。

 

鈴木:いやー、頭が下がります。そこまでの取り組みは、なかなかマネできません。

 

小澤:じつは、北海道警本部の担当者からお願いされていました。いろんな人がいるところで、(刑務所出所者を雇用することは)お金がかかるって言わないでくれって。ウチ以外にも雇用を検討している会社がいるから、ハードルを上げたくないんでしょう。でも、だからって隠しちゃダメですよね。それよりも、雇用主に対する助成金制度を充実させるべきです。

だって、刑務所にいると(受刑者1名あたり)年間200~300万円の税金がかかるんですよ。一方、雇用する会社への助成金は年間で最大72万円。そう考えたら、もう少し雇用主に助成したほうがいいですよね。働き口を用意して、再犯を防いだ方がいいわけですから。

 

鈴木:そうですよね。たしかに定職につけば、再犯率の低下にもつながります。

 

小澤:生活が苦しくなったり、孤独になったりすると、人って悪いことをするんですよ。でも、ウチに来たら楽しくなるので、再犯率が下がる。実際、何回も刑務所に入った人がウチに来たとたん、ピタッと悪いクセが止まりました。

いちばん多くて、前科43犯の社員がいたんですよ。普通はありえないけど、すっかりマジメになって、いい家庭をつくりました。去年入社した元受刑者も、スピード結婚して幸せそうです。こういうのがうれしいですね。

 

鈴木:特に印象に残っている社員はいますか?

 

小澤:入社当時に17歳だった非行少年です。彼は元暴走族のリーダーで、全身に和彫りの刺青が入っていました。いつもブスッとしていて、あいさつもしない。でも、仕事はがんばっているので、僕がほめたんです。すると、「初めてほめられました!」って、一瞬で笑顔になりました。

その日から、態度がコロッと変わりましたね。毎朝あいさつをするようになり、仕事の腕前もぐんぐん伸びていった。そういう子がいるから、おもしろいんです。

 

(小澤社長に緊急の電話が入り、取材が一時中断)

 

小澤:すいません、お待たせしました。いまの電話は「昨日面接に来た人が今日いなくなった」という緊急連絡です。10年前に出所した無職者ですよ。「明日からよろしくお願いします」とあいさつしたのに、約束した今日11時に出社してこなかったんです。

 

鈴木:え? せっかく就職が決まったのに、突然いなくなるんですか?

 

小澤:よくあるんですよ、こういうことは。満期の出所者を迎えに行ったのに、当日の朝に行方がわからなくなったこともあります。でも、チャンスをあげたいんです。ウチに飛びこんでくれれば、なんとかなりますから。

 

鈴木:入社前に寮の部屋を用意しておくと聞きましたが、こうして会社に来ないケースを考えたら、ちゃんと出社した後に準備したほうがいいかもしれません。でも、そうしないのは“居場所がある”ってことが大事だからですか?

 

小澤:ええ。歓迎の意味もこめて、部屋をキレイにして待っています。

 

鈴木:今回の方は残念でしたが、居場所が確保されていることに喜んでいる人も多いと思います。取り締まるよりも、居場所をつくったほうがいいですよね。

 

小澤:その通りです。だから、全国の刑務所に「従業員募集」のポスターを送っているんです。応募が来たら、僕が刑務所まで直接訪問する場合もあります。これまでに網走から鹿児島まで、計200ヵ所近くを訪れました。服役中に面接して、出所後すぐに働いてくれる人もいますよ。

 

鈴木:多くの出所者を受け入れてきたんですね。『幸せの黄色いハンカチ』という映画では、高倉健さんが出所直後にラーメンをむさぼり食いますが、そういうことって実際にあるんですか?

 

小澤:欲求はあると思いますよ。でも、すぐにラーメンを食べたら、確実に吐いちゃう。ずっと刑務所で質素なゴハンを食べていたから、身体が受けつけないんですよ。食べられるのは、せいぜいサンドイッチくらい。だから、ウチでは入社から1週間後に歓迎会を開いています。

 

鈴木:なるほどー。現実と映画の世界は違うんですね。

 

小澤:『羊の木』という映画でも、出所まもない元殺人犯がラーメンを食べていました。演出の意図はわかりますが、実際はありえない。飛行機で移送される際も、受刑者は一般客用のゲートを通りません。現実とフィクションの違いはたくさんありますね。

 

(第3回に続きます)

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