Interview

社長のせなか

北洋建設株式会社

小澤 輝真社長インタビュー

【第3回】 2018.07.24

 

従業員に「二千円札」を毎日渡す理由

 

鈴木:北洋建設は元受刑者の従業員に「二千円札」を毎日渡しているそうですね。なぜ、そんなユニークな取り組みをしているんですか?

 

小澤:お店で二千円札を使うと、珍しいので店員さんに顔を覚えられるんです。すると、悪いことをしづらくなる。たぶん、会社近くのファミリーマートは日本でいちばん二千円札が流通しているんじゃないかな? だから、あそこのオーナーはウチの従業員を知っているはずです。

 

鈴木:現実を知らなければ、なかなか思いつかない発想ですよね。いつ頃から、二千円札を使うようになったんですか?

 

小澤:4年前くらいですね。最初は、単純に便利だから使ってたんですよ。千円ちょっとの買物をするとき、千円札を2枚出さずにすむから。そうやって僕自身が使っているうちに、だんだん効果がわかってきました。

 

鈴木:二千円札を渡した人に顔を覚えられたってことですね。

 

小澤:なによりもインパクトが大きい。「初めて見ました!」って、たくさんの人に驚かれます。それで覚えられるんですよ。

あるタクシーの運転手さんは五千円札だとカン違いして、数千円のおつりを返してくれました(笑)。

 

鈴木:まさか、二千円札が出てくるとは思わなかったんでしょうね。

 

小澤:「これだ!」と思って、給与の前払い用に二千円札を使うようになりました。元受刑者の従業員に二千円札を毎日渡して、残りの給与を銀行口座に振り込むんです。月末の給料日まで待たせると、お金がないので悪いことをしかねません。

1日2000円あれば、タバコもジュースも買えますよね。でも1000円じゃ少ない。かといって、3000円じゃ多い。お金をもらったら、1日で使い果たす人もいますから(寮費は給与から天引き。1日3食つきで1450円)。

 

鈴木:たしかに「1日2000円」という金額は絶妙です。そして、二千円札を使ったら、お店の人に顔を覚えられる。とっても実践的な再犯防止策ですね。

 

小澤:もともと母が※補導委託を引き受けていたんですよ。その立派な姿を見て、僕も再犯を防ぐ活動に情熱をそそぐようになりました。

 

※家庭裁判所から非行のあった少年をしばらく預かり、仕事や通学をさせながら、生活指導をするボランティア活動。しばらく少年の様子を見たうえで、家庭裁判所が最終的な処分を決める。

 

鈴木:小澤社長は幼い頃から元受刑者の従業員にかわいがられてきたので、そういう人たちに対する偏見がない。それは商売上手なお父さんがつくった環境だった。そして、少年たちの面倒をみるお母さんの姿を見て、少年院や刑務所を出た人たちの就労支援に取り組むようになったんですね。

 

(小澤社長の母である静江会長が取材に同席

 

静江会長:私は家庭裁判所に頼まれて、長いあいだ補導委託をやってきました。15年間で31人の少年を受け入れて、そのうち28人は更生。社長になって活躍している人もいれば、ウチの業務車両を盗んで逃げた子もいます。裁判所では「第2母さん」なんて呼ばれていますが、いろんな意味で私自身が勉強させられました。もう70歳も過ぎたし、補導委託は15年を区切りに終わります。

 

鈴木:想いは息子さんに受け継いで―。

 

静江会長:そうなんですけど、裁判所の制度(少年の補導委託)と法務省の制度(刑務所出所者に対する就労支援)がまったく違うんですよ。裁判所は少年を助けるために、非行のあった少年だと明かしてほしくない。法務省のほうとは、趣旨が違うんです。お𠮟りを受けたこともあるので、これからは息子の活動をサポートしていきます。

 

小澤:刑務所によっても、就労支援の対応が違います。たとえば、所内で採用面接をしてもOKだったり、ダメだったり。受刑者が求人に応募したいのに刑務所が通してくれず、ウチに受刑者から直接手紙が届くこともあります。「おかしいだろ!」って声をあげても、全然直らない。だから、僕たちが各刑務所の所長さんと交渉しなきゃいけません。

ウチと同じような取り組みをしている会社もあるので、ちょこちょこ相談が来ますね。ウチのほうが経験豊富だから、「こんなときはどうしたらいいですか?」って。さっきもアドバイスをしたら、「こういう方法もあるんですね。勉強になります」というメールが返ってきました。

 

鈴木:刑務所によって、方針も制度も対応もバラバラなのは驚きですね。

 

小澤:省庁の壁もあります。あれは札幌で大きな郵便局の仕事を手がけたときでした。元請けは大手ゼネコンで、二次請けが北洋建設。NHKが出所者の就労支援を取材するために、その建設現場を撮影しようとしたんですよ。

それで関係省庁に撮影許可を申請したところ、法務省はOKなのに、総務省がNGを出してきた。その結果、撮影はなくなりました。おかしいよね! もし、出所者のがんばりを放送してもらったら、大きなやりがいになったでしょう。

あと、僕は大学院で修士号を取ったんですよ。テーマは再犯防止のための雇用。犯罪学はいっぱいあるけど、僕の専攻は「犯罪者雇用学」です。教授からは「小澤君が第一人者だ」って応援してもらいました。

 

静江会長:本当に頭が下がるわ。「人を助けて、わが身助かる」じゃないけど、この活動が息子の生きがいになっています。でも、無謀なことをして命を縮めないでほしい。神頼みでもiPS細胞でも、なんでもいいから長生きしてほしいですよ(小澤社長は難病により、医師から余命宣告を受けている)。

 

鈴木:小澤社長の活動、生き方には敬服します。今日は貴重な話をたくさん聞かせていただき、本当にありがとうございました。

 

(おわり)

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