Interview
牧野電設株式会社
牧野 長社長インタビュー
鈴木:組織改革について、もう少し聞かせてください。社長になる前から、いろいろ問題を感じていたんですよね。
牧野:いちばん問題に感じていたのは、教育の仕組みでした。父の時代には「情報共有」という概念がありませんでした。何ひとつ社員同士で教え合うことなく、誰が何をやっているのかも分からない。離職者からきちんと仕事を引き継げない状況でした。そんな体質を変えるため、全社員の頭の中の情報を徹底的に言語化することを始めました。
鈴木:具体的に、何をしたのですか?
牧野:物事を文章で正確に伝える練習です。話し方には、どうしても上手いヘタがあります。でも文章の場合、落ち着いて書けば、誰でも同じストーリーを共有できる。そこで社内SNSを導入し、全社員に週報を書いてもらうようにしました。
鈴木:とまどう社員もいたでしょうね。
牧野:書きやすいようにフォーマットを用意しました。その週にやったこと、起きたこと、問題点、翌週の行動予定など、最初は箇条書きでもいいんです。1年くらい続けていると、みんなわかってきますから。最近になって、ようやく自分がやっていることを言語化する文化が根づいてきました。
鈴木:古株の社員を変えるのは大変だったのでは?
牧野:そうですね。週報以外にも徹底的に特訓しました。たとえば、後輩への指導や説教をすべて文章にしてもらい、私がチェック。誤解を招く表現や前提条件の欠落など、修正すべき点を直接アドバイスしました。
そういった経験を活かして、いまの内定者研修も文章講座から始めています。
鈴木:実際の資料を見せてもらえますか?
牧野:わかりました。少々お待ちください。
(牧野社長が一時退席した後、分厚い研修資料を抱えて入室)
牧野:これが内定者向けの研修資料です。書籍などを参考にしながら、ものごとを伝えるノウハウを私なりにまとめました。
鈴木:いやー、力作ですね! 300ページぐらいありますよ。
牧野:最初の新卒採用時の後悔が大きかったのです。「文系でも働けるように研修が充実しています」と学生を口説いたのに、座学の研修は3日間で終了。20ページ程度の手書き資料しか用意できず、なにを教えていいかわからなくなってしまって。これじゃあ、騙したと責められても仕方ない。それ以来、研修資料を磨き上げてきました。
鈴木:それにしたって、これはスゴい…。なにか、内容の一例を紹介してもらえますか。
牧野:最初は通販番組の映像を流して、内定者同士で話しあってもらいます。テレビ通販って、人を説得する手法がすべて詰まっているじゃないですか。そこから、大切なことに気づいてもらおうと。
鈴木:へー、それはおもしろいですね。
牧野:みんな電気工事の専門的な内容を予想していたせいか、最初はポカーンとしていますよ(笑)。
その後は「人間は目に入る情報を頭のなかでどう処理しているか」「電気についての説明で、どんな例え話をするか」といったことを半年間かけて教えていきます。最後に、学んだことを踏まえて文章を短くまとめたり、膨らませたりするワークをやって、入社を迎えます。
鈴木:なるほど。まさか「牧野電設」という社名の会社が、こういうことをやっているとは想像できませんでした。伝える技術って、人生の武器になりますよね。だから、この研修はいろんな人にとって財産になるはずです。
研修で得られる効果について、どのように内定者へ説明しているんですか?
牧野:自分の頭にしかないものを人に伝えるのは、ゼロをイチにする作業です。まず、それが上達します。
もうひとつは、相手の考えていることや相手がどこまでの知識を持っているかを考えられるようになります。
内定者には「ベストセラー小説を書くことが目的ではないし、言葉選びがヘタでもかまわない。人の心に寄りそってあげられるのが、上手な伝え方だ」と話しています。
鈴木:「電気設備工事の会社で伝え方を勉強しても、業績は上がらないのでは?」と指摘されたら、なんと答えますか?
牧野:例えば、「戦争の歴史は、情報伝達の歴史である」とも考えられます。戦術や状況を、いかに全員へ正確に伝えるか。その情報伝達が上手な方が有利になる。ビジネスに置き換えても、本質は同じでしょう。
鈴木:同感です。僕たちが先人の偉大な業績を知ることができるのは、現代まで伝えられたからこそです。人類最大の発明はコトバ。それを駆使できない会社は、どんな業種だろうと伸びるはずがない。そこに着目して研修を行うのは素晴らしいと思います。
牧野:ありがとうございます。鈴木さんにそう言われると、背中を押された気がします。
鈴木:伝える力が身につけば、その人の価値が上がり、生涯収入も増えます。それを内定者に教えるのですから、僕が親だったら「牧野さんの会社へ行け」と言いますよ。まさに、財産になる。
それにしてもこの研修資料は必見です。僕も習いたいくらいです。今日は興味深いお話をありがとうございました。
(おわり)
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