Interview

社長のせなか

株式会社BIG UNIT

橋本 太郎社長インタビュー

【第1回】 2018.09.07

 

プロセスをふまなければ、一流になれない

 

鈴木:はじめまして。今日はよろしくお願いします。

 

橋本:よろしくお願いします。

 

鈴木:橋本さんは横浜ベイスターズ(現:横浜DeNAベイスターズ)の選手として活躍していたんですよね。いくつで入団したんですか?

 

橋本:高校を卒業後、18歳で入りました。現役生活を送ったのは、22歳までの4年間です。

 

鈴木:プロになるまでは、野球漬けの毎日だったんですか。

 

橋本:ええ。小学校2年生のときに野球を始めて、小・中・高と休みなく野球だけをやってきました。高校も野球推薦で進学しましたから。

 

鈴木:ずっと続けてきたことを辞める瞬間って、どんな気持ちでしたか?

 

 

橋本:戦力外(事実上の契約解除)を通告されるときは、球団のオフィスに呼ばれるんです。そこで「明日から来なくていい」と言い渡される。だから、呼ばれた時点で覚悟はできていました。むしろ、通告の翌朝がつらかったですね。

僕は選手寮に住んでいたので、部屋の窓から球場が見えるんですよ。昨日まで同じチームだった選手たちが練習しているのに、もう僕はそこに行かなくていい…。しばらく現実を受け入れられませんでした。その後、他球団に拾ってもらうためにトライアウト(12球団合同の入団テスト)に挑戦したけれど、それもダメだった。そこでスパッと切り替えましたね。新たな目標を立てて、ほかの世界でがんばろうと。

 

鈴木:プロ野球選手って、いつの時代も子どもがなりたい職業の上位に入るじゃないですか。でも華やかに活躍している人は、ほんのひと握り。ケガをしてしまう人もいるし、夢なかばで引退に追いこまれる人もいる。みんなの知らないプロ野球の世界について、教えてもらえますか?

 

橋本:僕は小学校の頃から「街でいちばん野球がうまい」とほめられて、自信満々でした。中学校や高校に進んで比べられる範囲が広がっても、誰よりもうまかった。僕は投手だったんですが、自分より球の速い人なんて見たことがありませんでした。でも、プロに入ったら全然レベルが違う。みんな僕より球が速いし、身体も大きかったんです。

そういうスゴい人たちが、さらに努力している世界なので、正直勝てないと観念するようになりました。ブルペンで僕よりいい球を投げているピッチャーが、登板直後にあっさりホームランを打たれるんですよ。あの広い東京ドームで。「どういう世界なの?」と驚きましたね。

 

鈴木:バケモノの巣窟のような世界だったんですね。引退した選手は、どんな道を歩むことが多いんですか?

 

橋本:解説をしたり、コーチになったり、野球界に残ることが多いですね。でも球界にはスターがたくさんいるので、そこに残っていたら自分なんて埋もれちゃうじゃないですか。たとえば、東大生が東大の職員になったら埋もれてしまう。東大の卒業生がいろいろな会社で活躍するから、「やっぱり東大出身はスゴい」という評判になると思うんですよ。

僕はビジネスの世界に行ったので、「元プロ野球選手の経営者」と注目してもらえますが、球界には僕より有名な人がたくさんいます。外に出れば活躍する機会が増えるのに、もったいないと思いますね。

 

鈴木:僕も学生時代に陸上に打ちこんでいたので、似たような思いを抱くことがあります。たとえば、100メートル走で8人が競うとしますよね。そこで1位になった人が8人集められて、再び競走します。さらに、そこで勝った人が集められて競走して…と常に7人が負ける構造なんです。つまり、同じ土俵で戦い続けたら、9割以上がいつか負けてしまう。これがスポーツの世界です。

でも社会に出たら、ルールが180度変わります。同じ土俵ではなく、ほかとの違いを求められるんですね。もしも「こういう店、ほかにもあるな」と思ったら、違うメニューやコンセプトを考えるじゃないですか。だから、ウチの子どもには「戦う土俵をズラすことが大事」と伝えています。

 

橋本:僕はスタッフになにかを伝えるとき、野球に置き換えるんですよ。たとえば、売上がよくなかったら、スタッフに「打てないときはどうする?」って質問してみる。野球の場合、スイングを変えてみたり、一流選手のプレイを見て学んだりしますよね。だから、スタッフには「ほかの店を見て研究しろ」と伝えています。競合店を偵察するのは、ライバル選手を見て学ぶのと同じですから。

 

鈴木:橋本さんのように、ほかの業界で活躍できる人もいれば、スポーツでは一流なのに業界が変わるとダメな人もいますよね。なにが違うんでしょう?

 

橋本:たしかに、元プロ野球選手が飲食店を始めて、すぐに潰してしまうケースは多い。お金があるので、商売の基礎がないまま始めてしまうからでしょう。だから、僕は皿洗いのバイトから始めました。

だって野球の世界はプロだったけれど、飲食の世界ではド素人ですよ。基礎を身につけなければ、うまくいくはずありません。野球でいえば、公園でボールを投げるところからスタートすべきです。

 

鈴木:なるほど。ほかの業界で一流になるためには、キャッチボールからプロレベルにまで成長するプロセスをもう一度ふまなきゃいけない。業界が変わったから失敗するんじゃなく、「どの業界でも大切なプロセスをすっ飛ばすから失敗する」ってことですね。

 

橋本:そう思います。僕は「ハレノヒ」というコラーゲン鍋のお店でアルバイトをして、そのまま社員になりました。「この会社でいちばんになる!」という意気込みで働いていたら、全店舗のなかで売上トップを達成。役員から声をかけられて、子会社の社長を1年間やりました。野球人生にたとえると、この頃が中学野球くらいですね。

そうやってトータルで4年間勉強して自信がついたので、26歳で独立したんです。六本木に「BEEF MAN」という焼肉屋をオープンし、会社を設立ました。

 

(第2回に続きます)

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