人生はギバーズゲイン。「ありがとう」と感謝されるサービス業こそ、働きがいであり生きがい。ディーセントワークの推進で業界とスタッフの社会的地位向上に貢献したい。
(株)バリュースタッフ
代表取締役
森本光春氏(東京)

FAVORITE

「人に貢献し喜んでもらえることが好き」と語る森本光春社長がサービス業に出会ったのは、高校卒業してまもなくのこと。一度は業界を離れますが、サービス業を通して人に貢献し感謝されることの意義を確信したことで、業界と働くスタッフのための会社、バリュースタッフを創業します。「サービス業は働きがいの塊」と考える森本社長は、業界とこの場所で働く人々の社会的地位を築くため、ディーセントワークの推進に取り組んでいます。その想いとSDGsを通して実現したい未来とは。

偶然出会ったサービス業界と不動産事業

マリコロ編集長:今の事業に出会ったきっかけを教えてください。

森本:高校卒業後にさかのぼります。当時やりたい仕事もなく、周囲のアドバイスを受けて留学しようと考え、留学費用のために稼ごうと始めたのがホテルの仕事でした。人材紹介会社に登録し、18歳で神戸ポートピアホテルで配膳のアルバイトを始めて1か月後、常勤のアルバイトとなり、休みは月に2日ほどながら30万円稼ぎました。19歳で大阪の堺にあるリーガロイヤルホテル(現・ホテルアゴーラ・リージェンシー堺)のオープニングでお声を掛けていただき働くことになり、20歳の頃に大型外資系ホテルの開業がありハイアットリージェンシー大阪の宴会部門で3年ほど勤務。その後ザ・リッツ・カールトン大阪のオープンニングスタッフとして3年弱を過ごし、26歳までは多くのホテルの現場を経験しました。しかし将来への不安や結婚を考える機会があったため業界を離れ、岡山で祖父の介護を手伝いながら半年間過ごします。その後、知り合いの紹介で不動産会社に入社することになります。

マリコロ:ご実家も家業をされていたと思いますが、不動産事業でしたか。

森本:いいえ。父は縫製工場や塗装の請負事業を行い、それ以前は代々染物工場を営んでいました。祖父も父も事業をやっていたため漠然と経営者になりたい思いは強かったものの、いずれも斜陽産業なので興味が湧きませんでした。その当時、羽振り良く見えていた不動産業界ならば、と飛び込んだのが26歳のときです。

入社してみると、その会社では分譲住宅団地の製造販売を行っていました。仕事は個人に権限委譲の状態で、自分で用地を探して地上げのように交渉するところから始まり、設計事務所と相談して区画を引き、住宅メーカーで見積もりを取り、出された金額に合わせて銀行で交渉するという内容を一人で仕切っていました。その結果、ビジネスの基本を学ぶことができましたし、年齢や経験に関係なく、頑張ったら頑張った分だけ身になることを実感しました。

サービス業界で「働くスタッフのための会社」を起業

森本:この経験から不動産事業で独立するつもりでしたが、 当時の業界は構造不況。これから伸びるのはITだ!と思ったのですが、知識も経験もありません。経験がある業界で起業できるか考えたとき、ふとホテル時代を思い出します。ホテルを辞めた後「戻ってこないか」とお世話になっていた先輩から声をかけていただいていたので、それならば戻ってホテル向けの人材事業で挑戦しようと考えました。

マリコロ: 森本社長にとってホテルでの仕事は運命的な出会いだったのですね。自分の会社を立ち上げたら実現しようと決めていたことはありますか。

森本:残念ながら、当時のホテル業界は人材を物のように扱う傾向が強くありました。そして、アルバイトの時給も高時給で人気があったため、“誰かが辞めても他に変わりはいくらでもいる”というようなスタンスでした。働く人でなく、お金を頂くクライアントに向き合って仕事をしている印象がありました。自分自身、仕事が楽しいと感じる瞬間はスタッフの成長や関わってくれた人たちからの「ありがとう」の言葉。その感覚は日ごと増していき、東京支店の立ち上げから2年経った2008年に独立しました。この業界で「働くスタッフに向き合った会社があってもいいのではないか」「働く人と業界の社会的地位を向上させることに貢献したい」と考えたのが起業の立脚点です。

ホテル・ブライダル専門バイト探しアプリ<バリプラ>では、応募から報酬の確認まですべてアプリで完結。働く人の使いやすさにこだわっています。

ディーセントワーク推進への想いとSDGsの課題

マリコロ:SDGs8番にあるディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を取り入れた「ディーセントワークを推進し、世界をステキに」をパーパスに掲げられているのはどんな思いからでしょうか。

森本:会社の理念は創業早々から存在していましたが、あくまでも社内に向けたものであって社外に向けたものは存在していませんでした。社内・社外の双方へ向けた発信を意識し、創業から変わらない想いが込められています。

事業と社会貢献の両方を考えたとき、SDGs8番の「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」が私たちの社是や理念と一致したため、パーパスに取り入れたという経緯があります。

マリコロ:パーパス浸透のため社内ではどのような働きかけを行っていますか。

森本:朝礼や年2回行う全社員向けの経営計画の発表会などで解説しています。また入社の際のオリエンテーションで新入社員はもちろん、中途採用者にも言葉を正しく理解してもらえるようにしっかりと時間を取って伝えています。しかし、現時点では完全に浸透している実感はまだありません。SDGsが生まれた経緯も含め、その出来事に対して“自分事”として捉えられるように落とし込むことが重要だと思っています。「SDGsの8番には私たちのやるべきことが組み込まれているのだ!」と草の根運動のように発信し続け、その価値観を浸透させることがスタートラインだと考えています。

和気あいあいと会話する森本社長と社員さん。とっても素敵な雰囲気でした。

サービス業は働きがいの塊、社会的地位向上を目指して

マリコロ:新卒採用なども行っていらっしゃいますが、若い世代のSDGsへの興味度は高いと感じますでしょうか。

森本:表面的な知識はあるものの、やはり事の起こりをわかっていない人がほとんどだと感じます。しかし、職業選択の段階からSDGsに貢献できることが良いと考える意識の高さは感じます。皆、利己的な欲求より社会的な意義を求める敏感さを持っているのではないでしょうか。

マリコロ:これからますます深刻化する人材不足なども大きな課題になると思いますが、サービス業の魅力をどのように発信されますか。 森本:家族の介護をしていた26歳当時、余った時間はデイトレードに費やしていました。大した労働をせずに大金を得てしまったことで、労働と対価が切り離され“この収入は誰からも「ありがとう」と言われない”と気づき、楽しめなくなった経験があります。人に貢献し感謝されることが最も嬉しく、これを無くして自分の仕事は成立しないと確信しました。

パーソル総合研究所による統計(https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/roudou2030/)では、2030年には日本国内で400万人の人手不足が予想され、断トツで人手不足の産業になるといわれているのがサービス業界です。ディーセントワークは「働きがいのある人間らしい仕事」ですが、お客様や周囲のスタッフ、クライアントと様々な人に関わり、「貢献してくれてありがとう」「あなたがいてくれて良かった」という感謝の気持ちや言葉を受け取ることができるサービス業は、まさに働きがいの塊です。
語弊を恐れず言えば、ChatGPTに仕事を奪われる可能性の高い職業と異なり「人に向き合って貢献することで誰かを幸せにする」。これこそサービス業の持てる力であり、人がやるべき仕事ではないでしょうか。だから私たちはより多くの人にサービス業界の魅力を伝えていくべきだし、働く人にも仕事を通して“誰かに貢献している”そんな喜びを感じてもらえる瞬間をたくさん受け取ってもらいたいと思っています。

ギバーズゲイン、目指すのは幸せの連鎖

マリコロ:サービス業の中でも、特にバリュースタッフさんの強みはどんなところにあるとお考えですか。

森本:私たちならではの価値は、世間やマーケットが決めるものだと考えています。バリュースタッフの社名は語呂の良さもありますが、「スタッフ一人ひとりに価値がある」と考え、名付けました。コストを最重視する企業様もいらっしゃいますが、私たちの考えに納得し一緒に仕事を組み立てていけるパートナーも多いです。是非これからもこの輪を広げていきたいですね。人を大切にする組織は長期的に強く、ホテルや結婚式場など労働集約型のビジネスへの影響も大きいと考えています。

マリコロ:森本社長は、起業にも繋がる人材業界というやり甲斐、働き甲斐に出会われたと思いますが、夢中になれるものに出会えないという若者にはどんなアドバイスをされますか。

森本:世間では「好きを仕事に」という言葉が飛び交っていますが、それは偶発的で感情的な存在です。林修氏の「仕事原論」にも書かれていますが、“努力を主観的に評価するのではなく、自分が貢献できて初めて評価される”ことが仕事です。つまり仕事に於いては評価されることが最も重要であり、好きという感情だけでは評価の実績を積み上げることができず長続きしません。たとえ自分が好まなくても続けていけば、必然的に実績もスキルも積み上がって評価され、信用が生まれる。これをただ繰り返すことで信頼される人になり、自らが必要とされる存在になるのです。人間は誰しも、得意なことや上手にできることって楽しいです。だからまずは、好まなくてもやってみる。できるようになれば、自然と仕事が楽しくなるよ、といったところでしょうか。

マリコロ:最後に、森本社長が事業を通して実現したい夢を聞かせてください。

森本:人に貢献し喜んでもらえること、出会えてよかったと思ってもらえることが私の幸せです。思考は現実化すると思うので、私自身がこの業界と働く人の社会的地位向上に貢献できたらと強く願っています。

また、人生は「ギバーズゲイン=与えるものは与えられる」と思っていて、私自身も与えたものがプラスで返ってくることが多い人生だと感じています。日本語の“与える”の意味からは上から目線に聞こえるかもしれませんが、常に誰かに貢献する意味でギバーでありたい。与える側も与えられる側も幸せになれる、そんな価値観に世の中が変わっていくことが夢かもしれません。