原爆の地から “HIROSHIMA PRIDE” を発信し、SDGs推進によりバスケットボールの可能性を広げ、日本の・世界のトップを目指したい。
(株)広島ドラゴンフライズ
代表取締役社長
浦 伸嘉氏(広島)

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元バスケットボール選手でもある浦 伸嘉社長率いるプロバスケットボールクラブ、広島ドラゴンフライズ。積極的にSDGs活動に取り組みながら地域との共生をはかり、Bリーグを牽引する存在です。その根底にあるのは、広島が育んだ屈しない魂だと語る浦社長。新B1リーグ参入やアリーナビジネス構想など、類稀なるスピード感で突き進むクラブが、過去から学び未来へ向けて繋いでいくものとは…。浦社長の「SDGsは未来の味」に迫ります。

大赤字状態で社長に就任、バスケットボール界発展のため      

マリコロ編集長:元々新潟アルビレックスBBでバスケットボール選手として活躍された浦社長ですが、引退後、どのような経緯でクラブチームの社長になられたのですか。

浦社長:まず引退後にBリーグのような枠組みができるのを見越して会社を立ち上げ、バスケットボール選手とチームを繋ぐエージェント業務やバスケットボール教室、グッズ販売などバスケットボールに関わる事業を展開していました。
以前のバスケットボールチームは、別事業を行いながらボランティアのような立ち位置で社長を兼任する人が多かったのですが、Bリーグ発足とともに専任社長を立てるルールができたんです。そのため発足2年ほどの広島ドラゴンフライズも新社長を探していましたが、当時2億2千万円ほどの赤字で財務状況が悪く、誰も引き受けなかったこともあり私に声がかかったというわけです。

元々選手だった浦社長。シュートショットもいただいちゃいました!ありがとうございます!

野球なら、高校生で契約金1億円ほどにもなる選手がいるのに、当時バスケットボールは日本一になったとしても一円にもなりませんでした。その差を生んでいたのは環境です。今後業界を発展させるためには環境整備が必要であり、それを最も効率良くスピード感を持ってできるのは自分だと考え、決断したのが7年前になります。

マリコロ:就任当時の財務状況からどのように立て直していったのでしょうか。

浦:私も競技者だったのでよくわかりますが、「日本でトップレベルのバスケットボールを提供していれば、お客様は来て当然」というのは競技者目線であり、それを捨て顧客目線で運営する必要がありました。お客様はなにを求めているのかを考えると、きっと日本で一番強いバスケットボールを見たいわけではない。 競技大会から興行へ、お客様がいかに楽しめるかを追求したエンターテイメントへと大きく転換させることにより少しずつ状況が変わっていきました。

たまに、、だそうですが選手にプレー指導もされる浦社長!

SDGs推進を後押しする「HIROSHIMA PRIDE」

マリコロ:今や多くのブースターに愛されている広島ドラゴンフライズですが、SDGs活動に非常に力を入れていらっしゃいます。そのきっかけはありましたか。

浦:生まれ育った環境が大きく影響しています。学校には、裕福な育ちの子がいる一方で、親がなく修道院から通う子もいました。その差に苦しんで非行に走る子もいたのですが、現在はそんな子ども時代を経た彼らとともに、修道院への寄付やバスケットゴール贈呈を行うようになりました。さらに私が小学生の頃母が中途視覚障害者となったため、幼少期から盲学校や聾学校にも縁があります。そんなことから、さまざまな子どもたちへ支援を続けていますが、これはSDGsに関係なく当然のことだと考えています。
また、クラブで「ピースプロジェクト」を行っていますが、広島に生まれ育って教育を受けてきた私にとって、広島でスポーツチームを運営する以上はそのメッセージを発信することもやはり重要。クラブが大きくなるほどにその使命感も大きくなっていると感じます。

マリコロ: 主に注力している活動はありますか。

浦:2つあります。まずは広島ならではの平和に関わる活動です。これはクラブ理念「HIROSHIMA PRIDE」にも合致しています。広島という地は、原子爆弾投下により20万人以上亡くなった経験を乗り越え、前向きに復興した平和のシンボル。その根底にあるのは屈しない魂です。苦しく悔しい思いにも折れず立ち向かってきた広島の先人たちのような精神で活動しています。国連ユニタールとの契約や「おりづるリレー」なども全て、一貫した考えで進めています。
もう一つは、子どもたちのための活動です。スポーツの世界において子どもたちの教育や投資に積極的に取り組む「育成の広島」と言われる土地だからこそ、クラブとしても力を入れたいですし、私個人としても若い世代に期待する思いがあります。

アリーナビジネス、新B1リーグへの参入は
バスケットボール界発展への布石

マリコロ:2020年に社長チップス!が主催した高校生SDGs選手権にも参加されましたよね。タッグを組んだ同じ広島の武田高校の生徒たちが、クラブのSDGs活動アイデアを考え発表し見事優勝しましたが、高校生たちと関わりどんな印象を持たれましたか。

浦:私たちの時代と比べると、高校生たちの社会に対する関心の高さに感心しました。

高校生からいただいた「あなたのピースで世界がピースに」をテーマにした4つの提案(①動画制作②バッジを製作し配布③折り鶴プロジェクト④ピースの体操)はコロナ禍の影響などで滞っているものもありますが、実現させたいと思っています。

マリコロ:Bリーグの中でもSDGs活動を広島が牽引していますよね。

浦:自己評価は難しいですが、オリジナリティに富んだ活動をしている自負はあります。広島という地だからこそ、使命感を持ってリーダーシップを取ることでやりやすくなるのではと感じます。

マリコロ:先日表明されました新B1リーグ参入への思いを教えてください。

浦:バスケットボールは随一の競技人口で視聴者も多く、世界中で楽しまれています。またハード面を整えることで、バスケットボールに留まらず新たにアリーナビジネスが展開できるスポーツ競技でもあります。今後日本のスポーツ界で一気に仕掛けられるとすれば、それはアリーナビジネスだけ。今はその基盤づくりの最中であり、布石としての新B1リーグ参入です。10〜15年後にやってくる大勝負に向け、効率的かつ合理的に成長させるためには必要不可欠なものだと考えています。また長期的にはそれほど関係ないチーム成績も、重要な局面では重要な鍵です。野球のWBCのようなタイミングで良い成果が出ればこそ、その価値は倍増します。私たちでいえば、今シーズン来シーズンで最も成果を出したいですね。

2022年11月に広島県廿日市市に新設した「ドラフラベース」。取材時出来立てピカピカで、すがすがしい空気が漂っていました!バスケとボールコート1面とトレーニング室が完備されています。

行政・メディア・協会と連携し
地域と共生

マリコロ:新B1リーグ参入には地域一丸となってクラブを盛り上げることが不可欠で、SDGs活動と表裏一体だと感じます。

浦:おっしゃる通りで、意識のレベルをともに上げ、地域の人々と協力してより良い社会にしていくのが必須です。地元に根ざし愛されるクラブになるため意識して動かなければ支援はいただけない。さらに気を引き締めて活動していきたいです。

また、アリーナ建設は気候変動問題と脱炭素が絡み、ゼロカーボンが重要な課題ですが、一昨年Amazonがシアトルに新設したアリーナはオール再生エネルギー設計です。そんな世界が確立されつつある中では、きちんとSDGsを学んで備える必要がある。より良い社会へと進めていくハブとなれるかはクラブチームに課された大きな使命です。強いメッセージを発信してリーダーシップをとり、アリーナを建設することで、選手はもちろん意識の高いアーティストやイベンターも広島に集まると考えています。
また、G7などの国際舞台として候補に挙がる地方都市は広島だけですから、この価値を理解した上でビジネスモデルを構築し、アリーナビジネスを確立させていきたいです。

マリコロ:構想実現には行政や他企業との連携も重要ですね。

浦:認知拡大のため、信頼を勝ち得る最速の方法として考えたのがメディアと行政自治体、バスケットボール協会とのリレーションシップです。まずは所属団体から応援される形をとり、次が行政。行政との信頼関係を構築しない限り、地域住民の応援は得られないと考えました。今回のアリーナ建設に関しても行政と連携し、最大の目的である新B1ライセンスの取得に向けて準備を進めています。また、メディアとの関係も大切です。行政との絆が強く、メディアにも数多く報道されれば、その価値を感じていただけるだろうと考えています。

広島から全国へ、そして世界へ。

マリコロ:今後、広島から日本、そして世界へと発信は広がっていくと思いますが、HIROSHIMA PRIDEや屈しない魂という言葉の根底には、広島出身である浦社長の地元愛が強く込められていますね。

浦:広島出身でこの地を盛り上げたいのは大前提ですが、独り歩きでなく日本全体を盛り上げていきたいです。広島の強みを最大限活かしてリーダーシップを取り、大きな一つのムーブメントが起こせたら嬉しいです。

マリコロ:子どもたち、次世代への思いも活動を通して伝わってきますね。

浦:はい。子どもの来場者数ナンバーワンクラブを目指しています。また教育も重要で、アリーナの新ビジネスモデルによって子どもたちに最高の教育環境を整えていけるような仕組みを模索しています。先ほどの国連ユニタール広島支部のような国際組織はまだアジアに少なく、今後誘致できる可能性は大きい。アジアの中心が広島となって優秀な人材が集まれば、ハイレベルな教育の仕組みが作れるのではないでしょうか。
世の中を動かしていくのは若者です。ピュアなエネルギーには物事を大きく変えられる力があり、 それを伸ばしてあげられる仕組みが必要です。時代の最先端である若い世代を古い人間が押さえつけるのはナンセンス。最先端の人類にどんどんイノベーションを起こしてもらってついていきたいですね。

マリコロ:最後に、浦社長が実現したい夢を教えてください。

浦:まずは日本のバスケットボールを発展させ価値を上げていき、いつかはWBCでの野球のように日本のバスケットボールを世界に轟かせたいです。もう一つは、アリーナ建設によってバスケットボールの枠を超えたエンターテイメント事業を興して日本一をとり、最終的には世界一を目指していくのが夢ですね。