相方のカラテカ・矢部氏や先輩のアドバイスで変われた自分。42歳で清掃アルバイトから独立起業。夢はピカピカを全国展開し、いつか相方とまたステージへ。
(株) ピカピカ
代表取締役
入江慎也氏【後編】(東京)

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闇営業騒動後、吉本興業を契約解除となった入江慎也氏はどん底の引きこもり期間を過ごす中で一念発起。未経験で清掃業に転身されます。
42歳でアルバイトからスタートし、現実とプライドとの狭間で葛藤しながらも、1年後、清掃会社ピカピカを創業。新たな道へ向かわせたのは、カラテカの相方・矢部太郎氏からのアドバイスがきっかけでした。とはいえ、独立直後は仕事がなく、失敗ばかりでしたと話す入江社長。
連載「激辛人生スパイCEO味」【後編】では、プライドを捨てきれなかったアルバイト時代から孤軍奮闘の創業を経て、新たな仲間と共に目指す未来についてお聞きします。

42歳でアルバイト、ゼロからの清掃業

マリコロ編集長:【前編】では、お笑いコンビ・カラテカ結成から闇営業騒動までのお話を伺いましたが、引きこもり生活から一歩踏み出すきっかけとなった出来事は何でしたか。

入江社長:相方・矢部とのやり取りでした。当時は3日に一度くらいは連絡し、コンビを組む前の友人に戻ったような感覚でした。誰よりも私に対して厳しく率直な意見をくれました。解散しないと言ってくれた彼を裏切ってはいけないと強く感じた私は、何を始めるべきか考え始め、芸人時代に使っていた小道具や衣装を断捨離しました。掃除をしていると少し気持ちが晴れたことに気づき、“清掃”が今の自分に向いているのかもしれないと感じたのです。

マリコロ:それまで清掃業との接点はあったのですか。

入江:全くありませんでした。清掃アルバイトをする後輩芸人はいたものの、どんな仕事か知りませんでしたし、この仕事に就くまで自宅にエアコンクリーニングを入れた経験すらありませんでした。
しかし調べるうちに、清掃業は初期投資が安くビジネスチャンスがあることがわかりました。「イメージが良いから」「禊なのか」と言われることも多いですが、それが理由でこの仕事を選んだわけではありません。42歳からでも始められて手に職つけられる仕事を模索し、たどり着いたのが清掃の道だったのです。

マリコロ: 未経験からどのように仕事を覚えたのですか。

入江:アルバイトへ行って先輩社員や社長に聞き、クリーニング手法をYouTubeで見て学びました。社長が自宅まで来てくださってエアコン清掃を教えてもらったこともあります。アルバイト期間は1年。本当は2ヶ月で独立したかったのですが、それほど甘い世界ではありませんでした。実際、会社の立ち上げ当初の仕事が完璧だったのかといえば自信はありません。ただ、当時42歳という年齢から来る焦りは大きく、動くなら今しかないと必死でした。

マリコロ:貴書「信用」によりますと、当初は清掃現場で「入江さんですか?」と声をかけられることも辛かったそうですね。

入江:誰にも自分が入江だとバレたくありませんでした。決して清掃業を下に見ていたわけでなく、42歳でアルバイトをしている自分に嫌気がさすことがあったので、別業種でもきっと同じだったと思います。最近までテレビやルミネの舞台に立ったり、講演して入江先生と呼ばれていたのに、急にアルバイトとなったのですから。そんな気持ちから、高価な時計やネックレスを身につけてアルバイト現場へ行っていました。しかし作業に入れば、そんなものはいかに無駄で邪魔かを痛感させられましたね。徐々に手放し身軽になるとやるべきことが明確になり、気持ちも吹っ切れていきました。

ピカピカ創業直後は
ヤフーニュースのトップになるが…

マリコロ:創業当初から仕事はありましたか。

入江:それが全くなかったんです。

まずは自分の入っているLINEグループの友人に清掃の仕事はないかと聞いてまわり、ホームページも作りました。そんな最中、ありがたいことにヤフーニュースのトップになり、しばらく掲載されていたため友人から連絡がたくさんきました。一般の清掃会社に比べればスタートダッシュは良かったと思います。とはいえ、それほど仕事があったわけではなく、自分が行った現場をSNSに一つひとつ挙げて地道に発信しました。最初の2か月は一人で会社をやっていましたし、創業から3年間は毎日現場に出ていました。現場に出なくなったのはつい最近です。

マリコロ:従業員の方はどのように募集したのですか。

入江:創業から2か月ほどたった頃、お世話になっていた経営者の方からコロナの影響で業種転換しなければならないと相談され、清掃業を勧めました。すると、従業員を働かせてほしいと提案をいただき、2人入社しました。

マリコロ:立ち上げ当初、清掃現場での失敗談はございますか。

入江:マンションのベランダ清掃のご依頼をいただいた際、高圧洗浄をかけていたら階下に漏れてしまい、下の方から水漏れのクレームが来て謝罪に行くことになりました。また、エアコン清掃にほぼぶっつけ本番で挑んだせいで、部品を壊してしまったこともあります。それに創業時は荷物の積み下ろしも運転も全て一人だったので、大変さを知りましたね。アルバイトの頃は先輩に送迎してもらっていたので、現地までは助手席に乗っているだけでしたから。車にカーナビがなかったので、目的地にたどり着けないこともありました。請求書も自分で作らなければなりません。パソコンが使えないので、全て手書きの請求書でした。今思うと、とんでもなくアナログでやばい会社ですよね。よくやれていたなと思います。

マリコロ: エピソード、いろいろありますね。ちょうどコロナ禍だったと思いますが、影響はなかったですか。

入江:清掃業はそれほど打撃を受けませんでした。 それもありがたかったと思っています。

ピカピカとして描くビジョン

マリコロ:ピカピカの清掃車のデザインを矢部さん、ユニフォームのデザインを石川涼さん((株)せーの 代表取締役社長)が担当されているそうですね。このことからも人脈の力を感じます。入江社長にとって、いまも芸人時代の仲間の皆さんが支えとなっているのでしょうか。

入江: はい、友人や吉本の先輩、後輩など仲間の存在はとても大きいです。仕事では吉本興業を離れましたが、先輩・後輩は今でも自分を芸人として扱ってくれありがたいです。気兼ねなく呼んでもらい、私の前でも皆容赦なくお笑いの話をします。昨日も今田耕司さんとご一緒させていただきましたが、「戻ってきたいんだろう、お前」とおっしゃっていただいたりして。23年間、お笑いしかやってこなかった自分としては忘れられてしまうのは怖いこと。今は新たな取り組みで努力するしかないと思っています。

マリコロ:芸人に戻ることを目標にされているのでしょうか。

入江:いえ、今は違います。戻りたい気持ちももちろんあるのですが、まずは成功したい。成功を一言では語れませんが、自分が思い描くビジョンに向かってピカピカで頑張っていくしかないと考えています。そうでなければ、社員に対して申し訳ないですから。

マリコロ:そんな社員の方々には、仕事に対してどう向き合うべきだと伝えていらっしゃいますか。

入江:私たちの仕事はサービス業、お客様に喜んでもらわなければならないということが根本にあります。お礼状を書くなど私がやってきたことを教え、【前編】でお話しした「WBC理論」もやってほしいと伝えていますね。感謝の気持ちを忘れず、一人では生きていけないことを理解してほしいと願っています。

立ち直るためには「信用する人の言葉を聞く」

マリコロ:これまでのご経験をふまえ、挫折を経験した人が立ち直るためのアドバイスとしてどんな言葉を送られますか。

入江:最も大切なのは、どれほど苦しくても自分が信用している人の話をきちんと聞くことではないでしょうか。
私の場合、相方がその一人でした。危機的事態に陥ったときは誰も自分の気持ちなどわからないだろうと塞ぎ込みがちです。当時の私も辛くて受け入れられないと感じましたが、この人がこう言うなら正しいだろうと思うように努力しました。さらに自分が向かうべき新たな目標を最初に設定し、そこへ至るためには何をすべきかを逆算して考えることも重要です。どん底にいると先が見えず、そこが一番苦しい。そんな中で目標を定めるのは至難の業ですが、逃げずにやるしかありません。
私の場合、新たに始めた清掃業は未経験でゼロベースでしたが、やってみると意外に苦ではありませんでした。なぜ前に進めたのかといえば、このセカンドキャリアでも人に恵まれたから。それに尽きます。アルバイトで入った清掃会社がまず良い環境でしたし、その後出会った協力会社の方々も、今の社員も皆良い人ばかりです。一度つまずいた後同じ過ちを繰り返してしまうなら、きっと環境を変えたほうが良いのだと思います。

相方とまた、ライブに立つ日を夢見て
ピカピカを全国展開へ

マリコロ:社長という職業についてお聞きしますが、入江社長流のリーダーシップはどのようなものでしょうか。

入江:リーダーシップと呼べるかわかりませんが、誰よりも動く姿を社員に見せるよう心がけています。また、できるだけ社員のために時間を使うことも重要だと考えています。社員からのLINEにはなるべくマメに反応し、月に一度は一緒に食事をするなど細かい気配りが意外と大きいのです。

マリコロ: 社長職の魅力、やり甲斐についてはどのようにお考えですか。

入江:創業時は1台だった社用車が3台に増え、私1人から6人体制になりました。 社員が成長してくれ、1年前とは全く違う景色が見える、そういうことが楽しいです。わずかですが、3年間での成長を実感しています。フランチャイズも15店舗となりました。立ち上げ当初はこんなふうになるとは全く思っていませんでしたから。

マリコロ:今後の展望についてはいかがでしょうか。

入江:まず、ピカピカの全国展開です。ピカピカを知っている人や使っている人、働きたい人が増えていくことが大変嬉しく、これを一つの目標にしています。そしていつ実現できるか分かりませんが、 再び相方とのライブができるのを望んでいます。これが私の一番したいことです。そのためにはまず相方に信用してもらわなければなりませんし、吉本興業がOKと言わなければ実現不可能です。今はピカピカの事業を懸命にやるしかないですね。

従業員さん、全国の支店の皆さんと入江社長!全国制覇応援しています!!