世界67社7000人の社員をサーバントリーダーシップで先導。「社員とその家族に幸せな環境を作ることがミッション」。NEXT ADERANSへの思い。
(株)アデランス
代表取締役社長グループCEO
津村佳宏氏【後編】(東京)

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ファンドの介入にMBO……パラダイムシフトによって変革を余儀なくされたアデランスの新社長に就任した津村佳宏社長。創業者の根本信男会長からバトンを託され、株式非公開化して見直しを図りつつ、売り上げを戻した矢先にコロナ禍が直撃。社員の意見で新たな事業展開を取り入れ、ピンチをチャンスに変えました。そんな津村社長が掲げるのは「ECSR 三方よし経営」。社員と顧客、そして社会貢献を軸にした経営で重要なのは、サーバントリーダーシップだといいます。連載「SDGsは未来の味」【後編】では、社長就任から現在までの歩みと、新たな転換点となるNEXT ADERANSへの思いについて伺います。

MBOと株式非公開化、大きな変化の中での社長就任

マリコロ編集長:社長就任時のことを教えてください。

津村社長:2017年にMBO(経営陣による自社の買収)を行い、一度足元をかためるべく株式非公開化に踏み切りました。パラダイムシフトによってコア事業のみではなく、周辺事業にも参入すべくビジネスモデルを見直しました。このとき代表取締役社長となりグループCEOにも就任しました。2023年5月末現在、アデランスグループは世界19の国と地域に67社(※休眠会社を含む)ネットワークを展開しておりまして、約7000人の社員をまとめています。

その後売上が戻って過去最高の818億まで伸び、次の展開を考えていた矢先にコロナ禍が私たちの1to1型ビジネスを直撃。その年に再上場を計画していたものの延期を余儀なくされ、とはいえコア事業だけでは立ち行かず商品開発を進めました。コロナが収束し始めた頃から私もトップ営業のためさまざまな社長に会い、様々な企業様に私たちの開発商品を取り扱っていただくなど座組を考えて取り組み、昨年はドライヤーだけで約7億円以上売上げました。

ウィッグが中心だったこれまでとは全くの別世界です。また、コロナ禍で既存顧客の来店率が減少しましたが、社員のアイデアでアイブロウ領域に事業を広げると、アイブロウ施術を高級感のある個室で安心して受けられるとお客様が急増。店舗数を増やすと一号店オープンから1年で約3万1000人、昨年は約10万人にご来店いただきました。既存店舗の再利用なので初期投資がなく、ネット予約とともにクロスセルが可能なアプリを作ったことでビッグデータも集まりました。

それによって顧客属性が把握でき、手付かずだったZ世代を含む20〜30代の新たな層の獲得成功や年齢の高い方もアイブロウに興味を持ち始めている傾向までわかりました。これに加え、パートナーズ制度や個人事業主制度の推進もでき、大変苦しい時期ながら新たなソリューションによりコマを進められました。今後のアデランス、非常に面白い会社になると思います。

「ECSR 三方よし経営」とサーバントリーダーシップ

マリコロ:既存の概念に捉われることなくチャレンジをされていますが、経営方針で大切にしていることは何でしょうか。

津村:我々の方針はいわゆる“サーバントリーダーシップ(奉仕した上で目標達成できるよう主体的行動を促す支援型リーダーシップ)”です。その経営指針として「ECSR三方よし経営」を掲げていますが、ECSRとは、ES=社員の満足、CS=お客様満足、CSR=社会的責任の3つによる造語です。まずはES、社員のやりがい。給与水準の高さや休暇の多さなどもですが何より働きがいが重要ですので、新入社員も積極的に活用したいと考えています。私もそうでしたが、自ら勉強して経験した結果として初めてスキルが身につきます。若い人たちに任せて経験を与えることで、組織全体が強くなると考えています。

マリコロ:それが「NEXT ADERANS」でしょうか。

津村:はい、アデランスの未来です。企業は変化しなければなりません。

某カメラメーカーは未来を予見してそれまで培ってきた技術を棚卸して成長事業分野への資源集中投入させた結果、売上げを伸ばしました。そういった市場の流れや世の中の動きを捉えながら経営しなければなりません。

マリコロ:創業の根本会長から受け継いでいることで、大切にされていることはありますか。

津村:アデランスは世界の毛髪で悩む方々を笑顔にしようとスタートしましたので、それは今も継続して持ち続けている思いです。その中に時代の変化で毛髪事業のみでは伸びしろが少ないと考え、美容や健康、医療をプラスしてウェルネスカンパニーになるという方針を付け加えました。

45年前からの「愛のチャリティ」に植樹活動……企業の社会的責任を重要視

マリコロ:津村社長も、新入社員のころ技術者として老人施設などでヘアカットしながら技術を磨いたとお話されていました。仕事を通した社会貢献の意義を実感されてきたと思いますが、アデランスではかねてからCSRやSDGsの考えを強く持たれていますね。現在はどんな活動に力を入れていらっしゃいますか。

津村:企業の社会的責任を重要視し、アデランスは事業を通じて世の中を幸せにすることに存在意義があると定義づけています。創業時は男性のためのオーダーメイド・ウィッグの会社でしたが、そこから10年ほど経って47都道府県全て出店する頃には老若男女問わずお問い合わせをいただくようになりました。女性や小さなお子さまの円形脱毛症、白血病などの小児がん患者の方、傷や火傷の後遺症などの外見ケアにも深く関わることがわかりました。そして45年ほど前、社員の声から「愛のチャリティ」を開始。子どもたちに無料でウィッグをプレゼントする活動です。かつて面接の際「中学時代に円形脱毛症で髪を失ったが、母が応募した愛のチャリティによって髪を取り戻したおかげで、明るい学生生活を送ることができた。アデランスに入社して同じような子どもを支援したい」と語った新入社員がいました。ほかにも当社のCSR活動への共感をきっかけに入社した社員が何人もいます。

マリコロ:CSR活動からアデランスの思いを受け継ぐ人々が生まれていくことは素晴らしいですね。

津村:はい、社会的意義を持つ大切な取り組みです。このほか、「フォンテーヌ緑の森」の活動も行っています。

環境問題に寄与すべく最初は山梨の森に1200本ほど植樹、続いて東日本大震災の被災地にNPO法人さくら並木ネットワークさまとともにエドヒガンザクラの植樹も行いました。現在は、東北の震災救援の影響で農薬散布が叶わず天然アカマツの3分の2を失った静岡県立森林公園で行われる植樹活動へも「フォンテーヌ緑の森キャンペーン」として、期間中にウィッグ回収にご協力いただいたお客様の売上の一部を利用し、社員たちが実際に赴いて地ならしや植樹にも取り組んでいます。また、東京理科大学栄誉教授の藤嶋昭先生との出会いから、応用型光触媒の研究にも取り組んでいます。事業とかけ離れていると思われるかもしれませんが、これもCSRの一つです。

「社員が最も大切」自ら率先して動き、活躍してほしい

マリコロ:本日の取材時若い社員の方が対応してくださいましたが、アデランスではどんな人材を求めていますか。

津村:若い人たちには本当に頑張ってもらいたい。私たちは50周年を迎えた際、高野山にアデランス供養塔を作りました。これまで会社に貢献してきた諸先輩、取引先様、お客様も含めた皆様への感謝と供養とともに、現在我が社で働く人たちの未来、NEXT ADERANSで大きく羽ばたいてもらいたい思いを込めました。社員が良い提案をしても最初から潰すような企業もありますが、後押しする環境のほうが成功するもの。チャレンジしなければ、会社も人も成長しません。企業にとって株主やお客様が大切と言われますが、私たちは社員とその家族を最も大切にし、2番目が取引先様とその家族、3番目がお客様、4番目が地域社会、5番目が株主と考えます。なぜなら、お客様に対応する社員や取引先様が努力しなければ良いものは生まれないからです。そのためのサーバントリーダーシップです。トップダウンも重要ですが、社員を支えて任せることが必要です。取引先様も同様で、下請け扱いせず大切にパートナーシップを育めばアデランスのために全力で取り組んでいただけ、結果としてお客様に良いサービスや商品が提供でき、会社の利益に繋がります。

また、現在ダイバーシティ推進もしていますが、アデランスグループは、日本人は約2500人に対して外国人が約4500人と多く、人種も多種多様。アデランスグループには国境はありません。また、アデランスUKは社員の女性比率が約80%で社長も女性。コロナ禍には経営層の減給を願い出ましたが、彼女は私がそれを進言する以前から率先して行っていました。サーバントリーダーシップは任せることが重要。創業者の根本会長も任せ上手です。新入社員としてアデランスに入ったら活躍していただき、中間層の人たちにはそれをサポートしてほしいですね。

社長として挑戦を続け、NEXT ADERANSで大きく次のリーダーを作りたい

津村:そういえば最近、Mr.Tご意見箱というものを作りました。

マリコロ:津村社長の“T”ですね?

津村:はい。記名した上で私に意見を言ってもらうコーナーで、他者には口外しません。ホットラインの専門ダイヤルは別に設けているので、ここには素晴らしい経営の課題や意見が集まってきているのですよ。

マリコロ:社長チップス!では社長の夢を若者に知ってもらうことを大切に考えています。最後に、津村社長ご自身の夢を教えていただけますか。

津村:会社が山あり谷ありだったので、社員とその家族の皆様にとって幸せな環境を継続的に作ることが私のミッションの一つです。また、NEXT ADERANSによって次の世代を育成しなければなりません。国内外の優秀な人が入ってきているので、新たなリーダーを作っていきたい。率先垂範リーダーですね。私たちは、毛髪・美容・健康のウェルネスカンパニーとして、世界中の方々に夢と感動を提供し、そのために最高の商品、最高の技術と知識、そして心からのおもてなしを実践していくことを経営理念としています。その中でやはり技術と知識を謳っているので、私自身が自分から見せるのが早いと感じ、自ら商品開発に取り組むほか、昨年9月には理美容の世界大会のヘアリプレイスメント部門に出場しました。

残念ながら200人ほどの中で11位に終わりましたが、社長が挑むことで社員への教育の一環となるのです。また商品知識や説明の動画撮影にも取り組んでいますが、これをやるのは社員に学んでほしいという思いだけです。今後はジャパネットたかた様のように自社でテレビ通販もやってみたいですね。社長チップス!が素晴らしいと思うのは、社長が自社を発信する必要性を感じるからです。社長が恥ずかしがりでは会社を知ってもらえない、少しだけ目立つことが大事ですね。