自殺も考えた、どん底の経営破綻。すべてを無くし残ったのは、家族と友と住宅への思い。世の中に「デュアルライフ」を伝える飽くなき挑戦。
(株)it'sHOUSE
代表取締役
八島睦氏【後編】(東京)
「人の期待に応えたい」思いで会社を渡り歩く中、古巣に戻りHOMEST(ホーメスト)の社長に就任した八島睦社長。
順調な無借金経営を続けていたにも関わらず、世間を賑わせた「かぼちゃの馬車」事件に巻き込まれ、やむなく経営破綻となります。何もかも失い自殺まで考えた八島社長が、今伝えたい「デュアルライフ(二拠点生活)」の魅力とは。そして建築を通じて、次世代に残したい価値とは。
連載「激辛スパイCEO 華麗なる復活劇」【後編】では、時代に翻弄されどん底を見た八島社長が、この先の未来や住宅業界に見る視界を伺います。
無借金経営で、順調に社長人生をスタート
マリコロ編集長:連載【前編】(https://shacho-chips.com/ceo_lemon/ceo_lemon-2952/)では生い立ちから住宅業界、HOMESTとの出会いまで伺いました。一度は離れたHOMESTと再会されましたが、社長に就任されてからの歩みを教えてください。
八島社長:今だから言えますけど、私自身はもともと経営者には向いていないと思っていました。常にNo.2でありたいと。ただ、前職からのメンバーが皆ついてきてくれたので、腹をくくったんです。家族を守るように、社員を守らなければというモチベーションが芽生えたことを覚えています。
マリコロ:社長就任直後は、スムースな経営状態だったのでしょうか。
八島:HOMEST自体は歴史がある会社ですし販促施策も安定していました。2年で売上35億、無借金経営を続け、滑り出しは順調だったといえます。
自殺を考えるほど思い悩み、会社を破産へ
マリコロ:そんな中で、激震が走る事件がありました。詳しく教えていただけますか。
八島:「かぼちゃの馬車」事件です。スマートデイズ販売・運営会社とスルガ銀行が融資書類改ざんを共謀して融資付けをしていたという過去に例の無い事件でした。スマートデイズと取引する事になったのは、10年来の知り合いの設計士がかぼちゃの馬車の関係者だったからです。融資付けもスマートデイズが行い土地契約も済んだ状態で、必ずスルガ銀行の支店で契約されていましたので、お客様もだと思いますが我々も信用しておりました。
更に下請けではなくオーナーと直接契約での施工という事でしたので、請負う事にしました。ところが2017年の夏頃から「かぼちゃの馬車」の入居率が良くないので危ないという話を聞いたので、2017年10月からは新規契約を受けないことにしました。しかし、それまでに契約済みで完成していない物件が20棟ほど残っていたのです。
すると2018年の1月、かぼちゃの馬車のサブリース契約打ち切りを発表し、オーナーたちがスマートデイズを訴え始めました。私は未完成物件を渡されてもオーナーが困ると思い、一切の入金もないまま全ての物件を完成させました。3月までの我々は一切不正に関与していないので、引き渡し物件の売上額で約9億円が入金されると信じておりましたが、オーナーからスマートデイズの仲間だと思われてしまい支払いがされない状態に陥ってしまいました。
マリコロ:無借金経営から一気に9億円の損害。。。
八島:銀行を20社回ってもスルガ銀行絡みだからとお金を貸してもらうことはできませんでした。最終的には、36億円の売上げのうち9億円が入金にならない状態で、完全に経営が行き詰まりました。なんとか経営を存続させようと、3月くらいから内々でM&Aの話を進めていたのですが風評被害によって直前で白紙になり、上手くいかず。デューデリジェンスや民事再生もうまくいかず、残念ながら会社を破産させる道を選ばざるを得ませんでした。
失意のどん底から、it’s HOUSEの誕生へ
マリコロ:破産からの歩みを教えていただけますか。
八島:11月27日にHOMESTの破産申請をしたあと、内々でM&Aの話を聞いていただいていた笹川順平氏から連絡を頂き、結果、2019年1月に「新しい事業を一緒に」とお誘いをいただきました。誰からも連絡がない状況で失意のどん底だったところに、私の事をまだ必要としてくれている方がいるんだと、笹川氏には感謝してもしきれない気持ちだった事を覚えています。
マリコロ:HOMESTの件があった後で、気持ちを立て直すことはできたのでしょうか。
八島:当時は本当に自殺しようかと思うほど追い詰められていました。かつては銀座のオフィスに毎日のようにお誘いの連絡があったのに、ぱったりと途絶えて。世間から見放され、社員の裏切りなどもあり、「人を信用してはいけない」という気持ちでいっぱいになっていました。
そんな中で、it’s HOUSEの1年間の顧問契約の話をいただいたんです。経営者は本質的には向いていないという気持ちはありつつも、笹川氏から八島さんがオーナー社長でとのお話があり、it’s HOUSEを担う覚悟を決めました。
会社で働く経験を前向きに捉えて欲しい
マリコロ:そこからit’s HOUSEの独自性豊かな別荘設計に発展していったのですね。
ところで、八島社長が会社を移籍するたびに社員さんも付いていくケースが何度もありました。信頼関係が構築されている印象が強いですが、社員の皆さんに接する際に工夫していることはありますか。
八島:何でしょうね、「うちの会社で働いて良かった」と思ってもらいたいことに尽きるでしょうか。
例えば女性社員に関しては、出産などでキャリアを断つのはもったいない。もちろん、会社としての損失も大きいでしょう。最近はDINKSも当たり前の時代です。社内託児所も完備しながら、これまで身に着けたスキルを引き続き発揮してもらえる方が、結果的に会社のためになると思って働きやすい環境づくりを推進しています。
マリコロ:製品・サービスを提供する社員が満足していなければ、お客様に満足してもらえないですもんね。
八島:その通りです。同じ業界の中でも「うちにいて良かった」と思ってもらえるように、資金はなるべく社内に投じるようにしています。
「別荘を持つ」を世の中の当たり前に
マリコロ:it’s HOUSEになってから、世の中への発信においてどのような工夫をされていますか。
八島:富裕層だけでなく、デュアルライフを20-30代でも体感できる、セカンドハウス(別荘)を全ての人が持つことが出来る世の中にしたいということです。セカンドハウスは「資産形成も出来、心も豊かになる。」これを当たり前にしたい。家は一軒しか持てないという概念を覆せれば、人口減の中でも住宅業界も潤い始めます。住宅は毎日使うものですが、別荘は「非日常」を体感できることが重要です。
マリコロ:確かに「別荘」という言葉の響きは贅沢なイメージがあり、別格ですよね。
八島:2019年頃にマーケティングしたところ、別荘を持っている方でも年間20-30日しか使わないというデータがあります。そこに年間平均70~100万と言われる管理費が加わると若い世代には難しいと思われがちです。
しかし考え方を変えると、使わない期間を運用に回せば収入が得られることになります。別荘を持っている優越感と、運用による収入源などに対して、総合的に判断してもらえるような働きかけを行っていきたいです。
夢は、社員全員が別荘を持てるような会社
マリコロ:最後に、八島社長が事業を通して実現したい夢をお聞かせください。
八島:社員が全員別荘を持っているというのは一つのTo Beの姿でしょうね。社員がビジョンを体現していたら、その会社に入りたいと思う人も増えますよね。そんな「夢のある会社」をつくりたい。もう一つの夢は、プロ野球球団が持てるような会社へと育てることができたらこれ以上ない喜びです。
マリコロ:やはり野球への思いが根底にはあるのですね。笑
八島社長だからこそ伝えられる社長職のやりがいについては、次世代にどのように伝えていきたいですか。
八島:やはり大きな失敗があったとしても、自分が信じた方向に会社を進めていけることに尽きると思います。お客様の期待に応えるのは当たり前ですが、さらに感動をもたらすにはどうしたら良いかを日々考えて実行できることが、やりがいにも繋がると思います。
マリコロ:再度経営を担う原動力はどの辺りにあるのでしょうか。
八島:自分ではナンバー2が向いていると思っているとも言いましたが、結局私には社長しかできないのかもしれません。2018年の会社破綻の際には、絶望のどん底でした。ただし、そのような状況であればあるほど、本当に自分のことを思ってくれる人が明確になるものです。元々、「自分のために」よりも「誰かのために」という思考が強いので、あの時救ってくれた人たちのためにも、もう一度立ち上がろうと思いました。いくら優れたビジネスモデルや画期的なアイデアがあったとしても、最終的にはビジネスは人とのつながりで成り立つものだと私は思っています。